養育費って何?
親には子供を育てる「扶養義務」があります。未成年の子供がいる場合には「生活保持義務」があります。具体的に言うと、「1個のパンを分かち合う義務」です。どんなに貧しくて、食べるものがなかったとしても親は子供にパンを平等に分け与えなくてはいけないというものです。自分が全部食べてしまわずに、半分に割って子供に与えなくてはいけません。当然、この義務は離婚をして親権を失っても免除されるものではありません。
しかし離婚をして親権を失ってしまえば、一緒に暮らしているわけではありません。実際にパンを分け与えるということはできませんから、養育費を支払うことで、この義務を果たすことになります。
養育費は、どんな状況であっても支払わなければいけないものです。再婚して家を建てたからローンの支払いが苦しくて払えない。慰謝料を払って生活がカツカツだから支払えない。こうした主張は通りません。生活のレベルを極限まで落としたとしても支払わなければいけないものです。
しかし実際に養育費を払っている人がどのくらいいるか?と調査してみると、離婚母子家庭のわずか3割しか養育費を受け取っていないことが明らかになりました。
なぜ、養育費が支払われていないのか?これは「最初に養育費についてきちんと決めずに離婚してしまった」というケースが多いです。養育費を支払うとは決めたものの、月額いくら支払うのか、毎月何日に支払うのか、何歳まで支払うのかなどを決めずに離婚してしまったので、曖昧なまま、支払いが行われなくなってしまっていたのです。
そこで、平成24年から、離婚の際には「養育費」と「子供の面会交流」について、きちんと取り決めをするようになりました。罰則があるわけではないので、曖昧に離婚してしまう人もいますが、一度チェックが入ることで、これをできるだけ回避できるようになりました。
また離婚の際には感情的になっている人が多いです。浮気された怒りで「こんな人からはお金を受け取りたくない!」「自分ひとりで育ててやる!」という気持ちになりがちです。
ところが現実に子供を育ててみると、子供には予想外のお金がかかります。病気などの想定外の支出もあります。自分が病気で働けなくなったり、会社が倒産して収入が激減することもあります。養育費なんて必要ない!と考えずにしっかり取り決めをするようにしましょう。養育費は過去にさかのぼって請求はできません。事前にしっかり取り決めておくことが大事です。
養育費の金額、相場はどのくらい?
養育費をどのくらい払うか?というのは「算定表」に基づいて計算されます。この算定表は東京と大阪の裁判官が共同研究して作成したもので、養育費の金額を決める調停、裁判の際に活用されています。よほど特殊なケース以外は、この算定表にある金額の範囲内で決まります。
算定表を見ると、養育費を払う側の年収、受け取る側の年収、子供の人数、年齢から養育費の目安が分かるようになっています。
養育費を払う父親の年収が700万円で、受け取る母親の年収が200万円のケースと、父親の年収が300万円で、母親の年収が600万のケースでは、払う養育費の相場が変わってくるのです。
年収はサラリーマン(給与所得者)と自営業で異なる計算方法をします。給与所得者の場合には源泉徴収票の支払い金額を見ますが、自営業の場合には確定申告の際の控除額を加えた年収となります。
養育費を決める時には、金額だけではなく、支払方法、期間なども決めておかなくてはいけません。一番一般的なのは毎月振り込む形ですが、一括払いで合意することもあります。期間も人それぞれによって異なります。高校卒業する18歳までなのか、大学へ進学するため22歳まで支払うという場合もあります。子供が病気になったときなど、お金がたくさん掛かるときには、別途協議するという取り決めもあります。
また養育費は後日金額を変更することもできます。例えば転職や失職、再婚など事情によって、話し合いで合意が得られれば可能です。
養育費を払ってもらえない場合の対処法
養育費の支払いに合意したのに、最初の1、2ヶ月は支払われたものの、その後ちっとも支払われなくなってしまった。意外なことに感じられるかもしれませんが、こうしたケースは非常に多いです。
もし支払いが行われない場合には、支払いを義務付けた調停調書、審判書、公正証書を元に相手に支払いを求めることになります。協議離婚の場合には、支払いの義務があることを認めさせるためにも必ず公正証書にしておくことをおすすめします。
何度連絡しても養育費を支払ってもらえないという場合に取れる方法で一番強力なものが財産の差し押さえです。特に相手が会社員の場合には給与差し押さえは非常に有効な手段となります。給与の差し押さえの良い点は、一度差し押さえをすると、その後も毎月給与から天引きされて養育費を受け取れるようになる、というところです。会社から直接支払ってもらえるため、支払いが滞ることがなくなります。ただし会社での立場が悪くなり、給料が減ってしまったり退職されてしまうと、結果的にもらえる養育費が少なくなることもあるので最終手段としてください。
相手が自営業の場合には給与の差し押さえができないので不動産や預金などの財産を差し押さえます。お給料とは違うので、なかなか難しいのですが、強力な手段となるでしょう。
先ほども書いたように、差し押さえは最終手段とも言える行為です。この他にも養育費が払ってもらえない時に取れる方法があります。それが間接強制と言う方法です。養育費を支払わないのであれば、1日あたり〇〇円の違約金を払えというもの。差し押さえとは違うので強制的に財産を取ることができるわけではありませんが、相手に心理的な負担を負わせることができます。
またこの他にも裁判所に申し立てて履行勧告や履行命令を出してもらう方法もあります。これらは実際に強制執行を出す前の段階として相手に迫るような性質のものです。このさいに、どうしても払えない事情が分かるケースもあるので検討すると良いでしょう。
再婚や再々婚が絡む場合の養育費
自分や相手が再婚した場合
自分と血のつながった子に関しては、子供が自立できる年齢になるまで養育費の支払いを拒否することはできません。相手や自分が再婚しても、親の扶養義務は消えないからです。ただし、子供を連れた元配偶者が再婚し、相手が裕福だというようなケースでは養育費の額を下げて貰うように交渉することは可能です。
連れ子がいた場合
離婚した元配偶者に連れ子がいた場合、血縁関係がないため養育費を払う必要はありません。結婚してた期間は子供を共に扶養しなければいけませんが、離婚後は赤の他人ですから、養育費を支払う必要はまったくありません。但し、養子縁組をしていた場合には相手と離婚しても養育の義務があります。養育費を支払いたくない場合には、養子縁組を解消しなければいけません。養子縁組を解消するためには、本人同士の同意が必要となります。一方的な通告で解消することはできません。
相続について
離婚した元配偶者がいつまでも自分の名前を名乗っているのが気に入らない。離婚したんだから、遺産を相続させたくない。完全に縁を切って二度と関わりたくない。こうした主張は一切通りません。
子供が離婚後にどちらの姓をなのるのかは、本人の自由です。また実子である以上、相続から外すことはできません。離婚しても親子関係は消えないからです。これは元配偶者が再婚しても同様です。
また、あなたが死ぬ前に、あらかじめ相続を放棄させると約束することもできません。仮に念書を取ったとしても相続は放棄したことになりませんし法律的に意味がありません。あなたが亡くなったあとに、子供から遺産を請求されれば渡さないわけにはいきません。法定通りに分配することになります。
親権問題の裁判例
Yさんが結婚したのは今から14年前のことです。結婚してから4年後には娘さんが生まれて、とても幸せに暮らしていました。ところが、旦那さんが浮気をしたことが発覚したのです。一度は子供のために離婚を回避したYさん夫婦ですが、関係がぎくしゃくしてしまい、それからというもの、些細なことで喧嘩が絶えなくなってしまいました。結局、離婚することになったのですが問題になったのが親権の問題です。旦那さんが10歳になる娘さんの親権をかたくなに主張したのです。当然Yさんも親権を譲るつもりはありません。家庭を壊した旦那さんに、愛する娘を取られるわけにはいきません。そこで弁護士に相談をしたのです。
実は弁護士に相談をするというのは大きなメリットがあります。協議離婚だったとしても、弁護士を間に挟むことでお互い冷静になれるので、早期に解決ができるのです。子供への影響も考えて、できるだけ早期に決着を付けたかったということもあり、弁護士費用はかかりますが、弁護士に相談をすることにしたのです。
さっそく弁護士さんがYさんの代理人となり、話し合いが進められました。Yさんと二人で話をしていたときには、感情的になりまったく話し合いにならない状態でしたが、やはり第三者、しかも法律に通じている人間がいることで落ち着いて話し合いができるようになったのです。
弁護士は、旦那さんに離婚をして親権を手放しても面会交流をすることで月に一度は娘さんに会えるということを話し、無事に話し合いがまとまりました。
養育費についても若干揉めたものの、比較的スムーズに話がまとまり約束を取り付けることができ、無事に話し合いが解決したのです。夫婦だけで話し合いを続けていれば、お互いに感情的になりすぎてしまい、きっと話は調停にもつれ込み、非常に長引いてしまったでしょう。
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